引用元→Do you have to love what you do? by Jason Fried of Basecamp

 

  スタートアップ向けのセミナーや刺激的なスピーチを聞けば、何度もなんども耳にするアドバイスがある。「好きなことを仕事にするべきだ!もし今の仕事が好きではないなら、家にいた方がずっといい」。他ならぬスティーブ・ジョブスはかの有名なスタンフォード大学の2005年の卒業式でこう言った。「偉大な仕事をする唯一の方法とは、自分の仕事を愛することです。あなた方がもしそれをまだ見つけていないなら、探し続けてください。決して適当なところに落ち着いてはなりません」。

 僕はそうは思わない。

 

 好きなことを仕事にするのには、もちろん何も悪くない。ただ、それはビジネスを始めることや、満足いくキャリアを積むことや、ましてや偉大な仕事をする上での前提条件ではないだろう。実際、本当に成功した人が愛のために持てる力のほとんどを注いだというのは、大富豪がお金なんて重要じゃないといういうようなもので、ちょっと信じがたい。人は往々にして、自分のモチベーションや歴史を美化したがるものだ。そういう人は、今自分にとって大事なものを重視するが、若いころ本当に重要だったことについては忘れてしまっている。それが人の性であり、よく起こることだ。

 僕が思うに、多くの偉大なビジネスやイノベーションは実際のところ、フラストレーションや時には憎悪から生まれている。Uberの共同設立者であるトラヴィス・カラニクとガレット・キャンプがカーシェア・サービスを始めたのは、なにも彼らが運送やロジスティックスが大好きだったからではない。サンフランシスコでタクシーが捕まらずうんざりさせられた経験があるから、彼らはこのビジネスを始めた。カラニクはUberの経営を今は楽しんでいるかもしれないが、彼は家に帰る手段がないことにほとほとうんざりしていた。

 ある夜パリで行ったデタラメなブレインストーミングが、このフラストレーションを数10億規模の会社の種に変えた。

 僕は機会があればいつでも起業家と話をするが、彼らの会社の多くは同様の理由で形になった。起業家たちは、それまで存在しなかったものを欲しかったか、今あるものよりより良いものを生み出す機会を見極めていたから、新しいビジネスが生まれた。

 対象への愛は彼らのストーリーにおいて重要かもしれないしそうではないかもしれない。しかし、既存の選択肢への憎悪や強い意見こそがより良い前兆なのである。

 僕自身のキャリアも例外ではない。90年代中頃、僕は音楽のコレクションを記録しておくシンプルなツールを探していた。しかし既存のプログラムはどれも、詰め込みすぎか不必要に複雑に思えた。どちらも僕が大嫌いなものだった。そこで僕は自分でツールを作り始め、最終的にそれをオーディオファイルという名前で発売した。音楽をコレクションするのは好きではなかった。ソフトウェアを立ち上げるのも別に好きではなかった(常日頃その勉強はしていた)。ソフトウェアビジネスを運営するといった野望もなかった。一つのニーズがあり、それを満たしただけだった。何もおかしいことじゃない。同じような状況がきっかけで、ベースキャンプという今の会社を始めることになった。

 本当のことを言えば、僕は今の仕事も必ずしも大好きなわけではない。成長中の大企業ならではの責任に加え、事務処理、報告書の作成、日々のこまごまとした仕事-これらで恍惚となることはない。でも他の仕事をするくらいなら、僕はベースキャンプを選ぶ。僕はこれに向いているのだろう。毎日、困難で創造的な仕事に取り組め、未だにより良いプロジェクト管理ツールを作ることは、やりがいのある仕事だと思っている。素晴らしい人々と日々の仕事に取り組むのは、本当に心踊ることだ。

 もし僕が刺激的なスピーチをするのであれば、もしあなたが仕事に成功し世界に本当に貢献をしたいのであれば、本質的には自分のすることを愛していなければならないし、日々その仕事をして過ごすことに幸福を感じるに違いない。愛は育つだろう。もしそうであれば、それは素晴らしいことだ。でもいますぐそれが必要なわけじゃない。まだ存在しないものを欲しいと思うことでも、あなたは成功できるのだから。